埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

メルセデスベンツC180の ドアミラー配線修理

メルセデスベンツ C180 (W203) です。
サービスリマインダーの点灯で入庫しました。


時々インパネに警告が出て、勝手に消える症状が続いているとのこと。



車輌側に記憶されていたDTC(Diagnostic Trouble Code)は、

・ P0170 Fuel Trim Malfunction

これ一つのみ。

コンビネーションメーターは、これとは別の故障がふたつある事を示しています。

症状再現を期待して走行テストに出掛けると、インストルメントパネル中央裏あたりから、走行速度と同調して変化するガサゴソという聞き覚えのある異音が。

パーキングブレーキのワイヤーが脱落してプロペラシャフトと干渉する音です。


パーキングブレーキワイヤーの脱落は、リジッドラックに掛ければフロアトンネルの遮熱板の隙間から容易に確認できます。このクルマも、プロペラシャフトにもたれかかった状態になっていました。


日本の道路運送車両法では不問にされて久しい「パーキングランプ」。
夜間路肩に停車するとき、事故防止のため常時点灯させる灯火です。

W203は、フロントはスモール(クリアランス)ライトと共用、リヤはパーキング専用のライトを装備しており、手元のスイッチで左右の選択をして点灯させる仕組みになっています。

メルセデスベンツはこの灯火にフェイルセーフの概念を取り入れており、リヤのパーキングライト専用電球(5W)が切れると、右なら右のコンビネーションランプ内にある別の電球(21Wシングル)に弱電流を分配して、不点灯の状態にならないように設計されています。


リヤコンビネーションライトの電球を点検。
切れている電球、黒く変色している電球を左右セットで交換。


ドアミラーを格納すると、ミラーカバーに仕込まれたLEDウインカー(ターンシグナルライト)が作動しません。展開してあれば正常に作動するので、稼動部分で故障が発生している可能性が高いとみてミラーを分解。

鏡面を内側いっぱいにセットして格納。この隙間から・・・

赤丸印の金具を車体側に寄せるとロックが外れます。

鏡面の向き調整はこの作業をしやすくします。

赤丸印がLED灯火用のソケット。

赤矢印の金具を外すと、鏡面を取外せます。

鏡面の角度調整部が現れました。

さて、ドアミラー内の配線を分解してLED灯火用の細い配線を調べると、ミラーの格納・展開時に屈伸させられる部分で断線が発生していました。


ドアミラーの展開と格納を繰り返しても動じない箇所で純正の配線を切断し、日本製の配線(YAZAKI)をハンダ付けして修繕。屈伸させられる箇所の前後8㎝程を熱収縮チューブで養生し、この部分の修理は完了としました。


次に、パーキングブレーキワイヤー脱落の修理をします。

同世代のCクラスではよくある故障で、垂れ下がったブレーキワイヤーのアウタースリーブがプロペラシャフトに干渉して異音を発生します。

ブレーキワイヤーは運転席の足元に繋がっているので、震源地がフロアトンネル後方であるにもかかわらず、センターコンソール前方あたりから車室内に響いてくるので、診断の際は注意が必要です。

排気管上方の遮熱板を取外し、ブレーキワイヤーとプロペラシャフトにアクセス。


フロアトンネルを形成しているボディパネルのスタッドに、水色のリテーナーで固定する仕組みです。赤丸印のリテーナーは、既に破損して先端部が欠けています。


すぐ横のリテーナーにも亀裂が走っており、取外そうとするとあっさり折れてしまいました。

この部品をよく観察すると、プラスチックが紫外線や熱害によって脆くなる、一般的な経年劣化による破損ではないことが分かります。素材そのものの色艶は褪せておらず、スタッドに取付ける部分の柔軟性も失われていません。

では、どうして破損したのでしょう?


FTECは、破損の原因を「ワイヤーの無理な取り回しによる過負荷である」と見ています。

その根拠は、同じ部品に同じ仕事をさせているにもかかわらず、左ハンドルの同型車では同じ症状を診たことがないからです。

もう一度、フロアトンネル内の様子を見てみましょう。

パーキングブレーキワイヤーはプロペラシャフト上方を通り、フットペダルに繋がります。
パーキングブレーキのペダルは、運転席の左右にかかわらず一番左と決まっています。

左ハンドルならペダルはトンネルから離れていますが、右ハンドルのペダルはトンネルのほぼ直上なので、ワイヤーの取回しは右ハンドルの方がタイトにならざるを得ません。


実際、このワイヤーは丈夫なアウタースリーブに覆われているので他車種のそれより重くて固い。問題の「青いプラスチック製のリテーナー」で、強引に曲げて固定するには無理があります。FTECでは、破損していないリテーナーも一旦外してワイヤーをフリーにした後、シフトセレクトレバー後方のリテーナーの向きを180°変えることによって、自然なカーブを描いて固定できるように改善しています。

新車をおろしてから早ければ25,000㎞で破損するこのリテーナー。
FTECでこの改善処置を施した後、再度破損したクルマはありません。

黄色 : 純正のカーブ  赤 : 改善後のカーブ

フュエルトリムについては、オーバーリーンの症状が出始めています。
対策として、エアマスセンサーとO2センサーを交換したいところです。
今回は喫緊の整備のみを優先して実施し、全故障コードをリセットしました。


W203系のCクラスは、伝統的なメルセデスベンツのキーテクノロジーを思いきりよく刷新したモデル。ラックアンドピニオン式になったステアリングを始め、全体的に軽くなった操作フィールに、古くからのメルセデスユーザーからは戸惑いの声があがりました。

しかし、デビューから15年が過ぎようとしている今振り返ってみると、W202から203への画期的なモデルチェンジの延長線上に現行モデルが存在していることは明らかです。

すでに充分な成功を納めていながら、変化を恐れない

W203は、そうしたメルセデスベンツの姿勢を体現したモデルだったのかもしれません。



おまけの動画は、新旧メルセデスベンツCクラスのテレビコマーシャル。
FTECは、「姿形が変わっても、流れる血は変えられない」、というメッセージを受けとめたのですが、皆さんの感想はいかがでしょうか?