埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

モビリオスパイクの点検

ホンダ モビリオ スパイク (DBA-GK1) です。
走行距離は126,000㎞。車輌各部の総合的な点検で入庫しました。

いっさい改造されていないクルマですが、使用環境に特徴があります。
海岸での業務に使用されているため、塩分と紫外線による損耗が著しいのです。


潮風と海砂と太陽光で、塗装部は全体的に艶消し、金属部は焦げたような赤錆に。
今回初入庫なので、差し迫った危険がないかを確かめながら、現状把握に努めます。

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全長は 4,125㎜ 。 全幅はもちろん、5ナンバーサイズ。


オーナーの、外観より機能重視で無駄な部品交換を避ける意向を踏まえて着手。
とはいえ、目に余る状態で簡単に手当てできるところには、つい手を出してしまう習慣が。


ワイパーは視界確保の重要な機能部品なので、最良の「リフィール」に交換(笑)。
その他すべてを修繕して、再利用します。


「ホイールの錆びも気になっているので点検して!」

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・・・看過できないので、交換しましょう。


ブレーキ周りは、数年前にホンダディーラーで整備した記録がありました。
ディスクパッド、ライニングとも残量は充分。


デブリを落とし、稼動箇所に最小限の給脂を施して再調整。


前回の調整が正しければ、ブレーキダストの量や摺動面の状態から様々な情報が得られます。初期制動時の左右バランスを考慮して、ドラムとライニングの隙間を調整。

ブレーキフルードを全量交換し、全ブリーダーからエア抜きを実施。
引き摺りや引っ掛かりがないかを入念に調べます。

ブレーキディスクとパッドの隙間から、ハブベアリングの遊び量を推し量ることもできますのでね。


パワートレインダイアグノーシスをスキャナーで点検。DTCの記録はありません。


エンジン関連では、ディーラーで行った最後の整備時にイグニッションコイルを1本だけ交換しています。当分乗りつづけたいというオーナーと相談の上、残り3本も純正新品に交換することに決定。


スパークプラグはNGK製 IZFR6K13。ディーラーでコイルを交換した際に取付けられたもので消耗は認められず、ギャップを確認しただけで再装着。

L15A型エンジンは気筒数 = プラグ数なので、ツインプラグより維持費が安くて助かります。


エンジンオイル、CVTオイルを交換します。
CVTは構造上全量交換できないので、純正HMMFを2回に分けて8㍑を交換。


ホンダ純正でほぼ新車外しという、極上のスチールホイールを入手できました。
オーナーが指名買いするほど惚れ込んでいるミシュランタイヤを、このホイールに組み直します。


非舗装路を頻繁に使っているだけあって、まだ新鮮さを残しているタイヤの溝には小石がいっぱい詰まっています。バランス調整の妨げになるので、組み換えの前にすべて除去します。


オーナーが積載物で破壊したまま、長年放置されていたという右側のドアミラー。
走行風でさえグラグラする状態だったので、ミラーの主構造を確認。


ミラー内の配線がギリギリの長さしかないので、落下せずにいたのでしょう。


骨格が完全に破壊されています。


色違いの中古ミラーを取り寄せ、カバーを組替えてボディー同色の代替品とします。


鏡面を取外して、リトラクターとアジャスターをミラーカバーから抜取ります。


白色の構造に茶色の外殻を組付けていきます

上下左右の鏡面調整と電動格納モーターの展開収納、防曇ヒーターの熱源用として、このミラーの配線は全部で7本あります。


このミラーアッセンブリーは、最後にカプラーを付ける手順で組立てられていました。

後からケースを組み替える場合、スペアのターミナルがなければ配線を接続しなおす方法を採ります。加工部には、ドアパネルに固定されるファスナーとファスナーの中間部を選び、リトラクターの作動が影響する箇所を避けることは云うまでもありません。



すべての機能を回復し、もともとそこにあったかのような佇まいを見せるドアミラー。
当然といえば当然ですが、周囲の艶消し具合に見事に溶け込んでいます。


錆落としと塗装のために、ワイパーアームを脱着。
ついでに、カウルトップの表面を活性化させてケミカルで補修。


退色したヘッドライトカバーも、ケミカル処理と研磨で回復させて表面をコーティング。






タイヤを組替え、ホイールを仮組み。すると、想定外の干渉が!Σ(・口・)


フロントブレーキキャリパーとのクリアランスが足りません。このホイールはモビリオ用で間違いないのですが、子細にチェックすると適合確認はLA-GK1でされていて、DBA-GK1ではされていません。さては、ランニングチェンジか。

Honda 純正モビリオ用, 4Holes, PCD 100, 14inch, 5.5J, Hub φ56

・・・ここまで同じでも装着不可とは!
ディスク断面のプロフィールを変えてまで対策を施すとは、色んな意味で流石はホンダ。


気を取り直して、LA-は不可、要DBA-での適合確認、という条件で再調査。
しかし、条件の幅が狭すぎて代替品は見つからず。
代案として、純正同等のハブセンターピースをもつ15㎜のスペーサーを介して再装着。


走行テストまでしてみたものの、・・・もろもろ納得がいかない

ハブセンター(φ56)で確実に嵌合するも・・・

アルミ切削加工品。鋼の商品は見当たらず・・・

モヤっとしたままのクルマを出庫するわけにはいかないので、別のホイールを物色。
ホンダ純正のアルミポリッシュホイールに、再変更することを決断


1回目のスチールホイールと同様に、極小のウエイトでぴたりとバランスされたアルミホイール。
性能と無関係のこだわりは、Hマークの下側にエアバルブがくるようにオーナメントを組むこと。

これはFTECの流儀ですが、黙っていても全部その状態で納品してくる 埼玉GY(株)川越営業所のサービスには、いつも感心させられます。


新調したホイールも適合確認はLA-だったので、15㎜スペーサーとセットで装着します。当然ながら外観上はまったく違和感なく、最初からこういうグレードがあったかのような雰囲気になりました。



オーナーは、長年ホンダとミシュランタイヤに厚い信頼を寄せています。
見た目の派手さは好まないので、ほぼ純正風の仕上がりに御満悦の様子でした。

今回の整備の主旨は、クルマ全体の状態を点検を通して把握すること。
ここでは小技の積み重ねを紹介しましたが、さらに地味な資料をたくさん得ています。

中古部品はジェネリック医薬品のようなもので、上手く利用すれば限られた予算で幅広いコンディションの回復を計れるメリットがあります。

全体のバランスに気配りしながら延命をはかっていく。
そのアドバイスをするのも自動車整備士の使命に違いないと、FTECは考えています。


【ご参考】 ホンダ公式 「今まで販売したクルマ」 モビリオスパイク